とりあえず、すでに2か月以上前の事ではありますが、とうかい号での研修の続報です。
とうかい号での私の研修の2回目は、おそらく日本初の試みだったと思います。
標準的な世帯のCO2排出量を基準にして、自分と家族のライフスタイルを変える事で、CO2を1990年のマイナス6%にできるか、挑戦してもらったのです。
しかも、自分たちの生活がどれだけ環境に負担をかけているか実感してもらうため、削減要素だけでなく、増加要素も計算してもらいました。
正確に計算するには、1990年と、現在の各家庭の、電気、ガス、ガソリン、灯油、水道の使用料や、ゴミの量をもとにする必要があります。
しかし、とうかい号の乗船者430名全員にそれを求めるのは無理です。そこで標準家庭のライフスタイルとの差で計算する方法を考えたのです。
まずは、標準的な家庭が出すCO2の量を算出しました。
数字や参考資料がそろっていた、2005年度の排出量のデータを元に、家庭部門と、運輸部門の自家用車、一般廃棄物、水道の数字をあわせて、世帯数で割ると、約5500kgとなりました。
1990年の排出量から、マイナス6%を達成するには、1046kg、つまり、約1t削減しなければならないことがわかりました。
この-1046kgを削減目標として設定しました。
各項目の削減数値を、どう設定するか、大変頭を悩ませました。正確さと、計算しやすさという、相反する命題があるからです。また、世帯あたりの数字のため、自分以外の家族の行動を、数字にどう反映させるかも考える必要がありました。
例えば、「レジ袋を断る」という行動は、家族全員なら-50kgになるのですが、5人家族の一人で、自分は全部断る決意をしたとしても、他の家族が、協力してくれそうもないなら、-50kgとする訳にはいきません。
そこで、このようなケースでは、一世帯あたりの削減可能数に、0〜1の指数をかけて、削減量を計算してもらうことにしました。
上記のケースで言えば、-50kg×0.2で、-10kgというわけです。
下の画像は、研修で使ったパワーポイントの画面です。下半分は、記入用紙の一部を拡大したものに、記入例を加えたものです。
削減量を最後にまとめて計算するのでは、時間がかかり、間違いが出やすいと考え、積算の欄を作って、その項目の計算が終わるごとに、その数字を足したり、引いたりして、リアルタイムで、削減量、増加量がどうなっているか把握できるようにしました。
一番困ったのは、車でした。
標準的な家庭のガソリンによる排出量は、1583kgです。一世帯あたりの車の保有台数は1.1台ですから、まあ、一家に一台としました。
そして、排気量別で見ると、1500cc〜2000ccの車を持っている家庭が最も多いので、それを標準としました。
2500cc〜3000ccの車は、燃費が5割前後悪くなるので、1583kgに0.5をかけた、792kgの増加、3000ccを越える車は、同じ燃料で走れる距離が半分以下になるので、倍と考えて、1583kgの増加としました。
逆に、燃費がいい、軽自動車や1300cc以下の車は、-0.3をかけて、-475kg、二輪車は×-0.5で、-792kg、スクーターは、-0.75で、-1187kgとしました。
問題は、複数保有している場合で、当初は、下の例のように、走行距離の割合をかけた上で、上記の指数をかけてもらうつもりでした。しかし、研修委員の人たちとシミュレーションした際、「数字に弱い人はついて来れなくなるのではないか」「4台保有しているような家もあり、計算が複雑になる」といった意見が出ました。
結局、正確さは落ちますが、よく使う2台までを考えれば良いことにして、割合をかけず、排気量による補正の数字をそのまま、増減量とすることにしました。
なお、ハイブリッド車の場合は、基準値+排気量による補正をした上で、-0.5をかけて、削減量を出してもらいました。
さらに複雑になるのは、排気量・車種による補正をした数字をもとに、年間走行距離による補正をし、その数字をもとに、他の交通手段への切り替えによる削減をし、その上で、エコドライブの実践による削減をする、と積み重ねて計算する必要があることです。
ちなみに、車からバスに切り替えれば、7割削減、鉄道に切り替えれば、9割削減になります。
最大の難所、車を越えられた人は、あとはその応用でいけるので、最後までついて来られたようです。
ゴミ、水道、ガソリン、空調の電気+灯油、空調以外の電気、ガスという項目ごとの補正、削減をした上で、それでも目標の削減量に達しない人のため、救済手段を考えました。
一つはカーボンオフセット。ある場所やある行為によって排出される温室効果ガスを、他の場所で行う行為によって相殺する考え方です。この場合、家庭で削減できない分を、オフィスで削減することで相殺できるようにしました。
例えば、会社の営業車や、トラックでエコドライブをしたり、オフィスの蛍光灯をHf型という省エネタイプに替えたり、昼休みの消灯を実施したりといったことです。
また、排出権取引の制度も考え、余分に削減できた人から、足りない人に譲れるようにしようとしたのですが、余分に削減できた人が予想より大幅に少なかったため、実施できませんでした。
最後の手段として、植林による削減もできるようにしましたが、それでも、多くの人は、目標達成に至りませんでした。
今回のチャレンジで色々なことが分かってもらえたと思います。
かなりの家庭にとって、1990年のマイナス6%を達成することは容易ではないこと。特に、大きな車を持っていると、他でどれだけ努力しても目標達成どころか、マイナスにすることすら難しかった人もいたようです。
また、小さな努力だけでは目標達成は難しいこと。
エコライフについて語られる時、「小さな事から始めよう」というフレーズを、決まり文句のように聞きます。確かに、小さな事から始めることは大切です。それを積み重ねていくことも大切です。しかし、それだけで満足せず、中くらいのこと、大きな事へも取り組んでいかないと、目標達成のレベルには、なかなか届かないのです。
例えば、家電を省エネモードで使って、リモコンではなく主電源で切るようにすれば、-49kg。炊飯ジャーで保温するのをやめて、冷めたら電子レンジで温めるようにすれば、-42kg。電球を電球型蛍光灯に10か所買い換えれば、-80kgといった感じで、-1046kgまで積み上げるのはなかなか大変です。
しかし、ハイブリッドカーに買い換えれば、-792kg。3kWの太陽電池を設置すれば、-1512kg。家を買う時、高性能の省エネ住宅にすれば、-583kgといった、飛び道具のような方法を使えば、達成が可能になってきます。
冷蔵庫だけの例で見ても、扉の開け閉めの回数を減らしても、標準的な使い方との差は、年間数kg。壁からの距離など設置条件を最適にしても、普通の置き方との差は、やはり数kgにしかなりません。しかし、省エネ型の冷蔵庫に買い換えれば、-124kgです。スタート時点での差が大きいと、その後、いくら使いこなしの面で努力しても、逆転は難しいのです。これは、エアコン、車、家、給湯器など、大きな買い物に、共通して言えることです。
ですから、私がいつも提唱している、エコ・ゴージャスなのです。最初はコストが高めに掛かっても、省エネ性能を重視した買い物をすることで、ランニングコストが抑えられるので、長い目で見れば、得をするし、環境負荷を大幅に抑えることができます。しかも、機械まかせではなく、使いこなしも工夫すれば、さらに省エネ、環境負荷低減ができます。それが、知恵とテクノロジーの両方を使って、効率を上げ、自分も得をする、環境に優しいライフスタイル、エコ・ゴージャスなのです。
今回、全員目標達成となれば、美しかったのですが、達成できなかった人も、自分や家族が、どれだけの環境負荷をかけているのか認識し、少しでも、できれば、大幅に、環境への負荷を減らす意識を持つきっかけにしてもらえれば良かったと思います。
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